雪斗は東京出身のバリバリ大都会育ち、しかも家がそれなりの金持ちで、いままでに『苦労』だの『貧乏』だの感じたことさえなかった。       

 そんな雪斗が、どこに行っても携帯の電波がギリギリ立つか立たないかの田舎に来たのは、夏休みにおじいちゃんの家に泊りに来たから。 ただそれだけのはずであった。
 しかし、急きょ、両親の都合で、しばらくそこで過ごすこととなったのである。

 テレビゲームもない、インターネットもつなげない環境は、インテリ小学生である雪斗にはストレスそのものであった。  日に日にグチが増える孫の姿を見て、おじいちゃんは、近所の子供たちに頼んで仲良くなってもらうことにしたのであった。

 そのことがきっかけとなり、東京でもまともな友達が作れていなかった雪斗に、大きな転機を与えることとなったのである。

 

 

 「お〜い!ユキトぉ! 川に泳ぎに行こうぜぇ!!」とてつもなく健康的といわんばかりに日焼けをし、褐色の肌から、まばゆいほどの白い歯を見せて微笑むのは、近所のガキ大将の勇治で、みんなからは「ゆうちゃん」と呼ばれていた。

 勇治は誰にでもオープンな性格で、当然、人気もあった。 いままで、雪斗の付き合いのなかったタイプといってもいい。 いや、むしろ、ませた性格の雪斗は、狙って避けてきたタイプだったのかもしれない。

 「ボクはいいよ。ゆうちゃんの泳ぐの見てる」距離を置くような態度を見せて、雪斗が呟くように言った。 ちなみに雪斗が彼のことを「ゆうちゃん」と慣れひたしく呼ぶのは、彼本人から強制されたことであって、それ以外のなんでもなかった。

 「んだよ、つまんねぇヤツだな!? いいから来いっ!!」腕を引かれて無理やりに連れて行かれる。 抵抗しようとも、雪斗には勇治に勝る体力も気力もなかった。      
 「痛いじゃないですかぁ!?」そう言いながらも、雪斗はなされるがままに歩いっていった。

 

 

 小さな滝の近くに掛かった橋の上で、勇治が手を振り叫んだ。  その声に反応して、滝のうえから、全裸の少女が姿を見せた。

 「うわぁ、なっ、なんで裸なんですかぁ?」手で顔を隠しながら、雪斗は、少女に背を向けた。  それを尻目に、勇治は「あんなの見慣れたモンだよ♪」と言いながら、自分の服も脱ぎ始めた。

 「えっ、ちょっと? どうしたんですか!?」あっという間に、彼も全裸になってしまい、雪斗は服を着ている立場にもかかわらず、逆にしどろもどろであった。

 「ココから飛び込んで遊ぶのが、俺ら流なのさ!!」そう言って、勇治は橋から3メートル位高さがあるにもかかわらず、何のためらいも見せずに川へとダイブした。

 「わっ、死んじゃいますよぉ!!?」橋から身を乗り出して、思わず叫んだ雪斗。 勇治は、水面から勢いよく飛び出て叫んだ。

 「死ぬかよバァカ!お前も飛べよ!? 気持ちいいぜ!!」

 「む、無理です!! だってボク泳げないし!  ・・・水着もないし・・・。 」冗談じゃないと言い返した雪斗だが、水着がないから泳げないという主張は、通りそうにないと思ったのか、声が小さかった。

 「情けないなぁ、んもぅ! ウチが泳ぎ方教えたげるよ!」雪斗に向かって、先ほどの全裸少女がそう言い、彼女もまた、特にためらいもなく立っていた滝の上からダイブし、水面から顔を上げた。

 (えぇぇええ・・・ )うれしいようなうれしくないような気持ちであった。 まさか、裸同士でレッスンするんじゃ?  そう考えるだけで、雪斗は顔から火が出そうであった。
 そこは、マセガキの考え方である。
 なぜなら、この少女、同じ小学校高学年といえども、かなり異性を感じさせるまでの成長をしているし、
割と胸だって、ふっくらとしている。

 そんな雪斗の気持ちを悟るわけでもなく、勇治は彼を川原まで引きづり下ろした。

 

 

 「ぜっ、全部脱がなきゃいけないってことは・・・  ないよね?」

 「はぁ?そりゃルール違反だよ! 女の子のウチだって、ほらこの通り!!」赤面しながら尋ねる雪斗にたいして、一糸まとわぬ状態の少女が、くるりと回って言い返した。 ご丁寧に回ってくれなくても、全裸なのは一目瞭然であったのに、これはある意味での歓迎の印なのだろうか。

 彼女の名前は、育子。勇治に引けをとらないほどの、やんちゃ娘であった。  ここまで濃いキャラクターの2人から、なかなかNOの返事は繰り出せない、内気な雪斗は、ブリーフ1枚の状態で、股間を押さえてあたふたしていた。

 その状況に勘が働いたのか、勇治が泳ぎながら叫んだ。

 「あ〜!分かった! ユキト、育子の裸見て、ちんちん勃っちゃったんだ!!」

 おもわずビクッと反応してしまう雪斗。 まさに図星であった。

 「そんなん気にしない!」

 「わぁぁあっ、ちょ、女の子がそんなことしちゃダメェェ!!」嫌がる雪斗から、強引にパンツを奪い取ろうとする育子。  まるで、赤ちゃんのオムツでも取り替えるかのように、簡単に剥ぎ取られてしまった。                                                                       プルンと、飛び出した雪斗の勃起ちんちんに、育子は耳元で呟いた。

 「すっごい大きいよ? ゆうちゃんより大きいんだから?」

 そう言われ、雪斗は喜ぶべきか怒るべきか、本当に心からリアクションに困る。

 「さっ、準備も出来たことだし、早速泳ぎの練習しましょ♪」雪斗の感情なんてどこ吹く風といわんばかりに、育子はマイペースであった。 恐るべし田舎娘。                
 そして、育子はそういった後、思いっきり雪斗を川へと突き飛ばした。

 「わばぶっ!!!」意味も分からないうちに、川に落とされていた雪斗。 しかも、結構深さがある。

 「まずは水になれることが大切でぇ〜す!」得意げに指を立ててそう語る育子。 水に慣れることが、まず大切なのは分かるが、いろいろと準備があるだろうと思う雪斗であった。

 しかし、死なないために必死になった結果、割とすぐに泳ぎをマスターしたのであった。  秒殺で雪斗が泳げるようになったことを、すべて自分のおかげだと語る育子に、さすがの勇治も苦笑いであった。

 

 

 「ねぇ!ゆうちゃん!!石の間にエビがいたよ!!」

 「そりゃ、テナガエビだよ!けっこう美味しいゼ!?」泳ぎもマスターして、裸の恥ずかしさにも慣れ始めた雪斗は、一変して、目をきらきら輝かせながら、見知れぬ大自然の遊びに夢中になった。  とても少年らしい笑顔であった。

 勇治も育子も、それを見てご機嫌だ。 これでこそ、都会のうじうじ少年を遊びに誘ってみてよかったというものだ。

 「じゃぁユキト!橋から飛び込めよ!? それでこそ勇気の証、俺たちとの信頼の証だ!!」

 ほんの1時間前の彼なら、大きく首を振っていたであろうが、今の雪斗は違っていた。

 「うん!ボク!!  やってみる!!」

 

  ザブ〜ン!!

 雪斗が、無事に勇気の飛び込みに成功したのは、やってみると言って橋の上に立ってから、2時間と15分後のことであった。

 しかし、それまでの間、勇治も育子も、優しい言葉をかけながら見守っていた。

 「やるじゃん!?これで俺たちは親友だな?」そう言い、橋の上から親指を立てて笑う勇治。

 「しんゆう・・・?」 雪斗は、自分の身には、あまり聞きなれない言葉に、少し照れた。はにかんだ微笑みを、夕焼けが赤く映す。

 3人は、真っ赤に染まる夕焼け空のした、また明日も遊ぶ約束をして解散した。

 カエルの鳴く田んぼ道を、雪斗は楽しい気持ちで、跳ねるように駆けていった。都会では味わったことのない経験、雪斗はここにいれる残された時間を、もっとたくさん楽しい気持ちで埋めたいと思った。

 それからの雪斗は、毎日毎日遊びに出かけた。

 雨の日にだって、かまわず泥まみれになって駆け抜けた。いつも笑っていた。

 勇治と育子とは、カブトムシを取りに行ったりもしたし、そのカブトムシ同士で相撲を取らせて遊んだりもした。面白いことに、土俵に上げられたカブトムシは、決して戦いから逃げることなく、相手とぶつかってゆく。そこが、たまらなく熱く盛り上がった。さすがに、昆虫界の王様といわれるだけある。

 そのことを、カードゲームではなく実体験として体感することが出来たのだ。

 2人意外にも友達が出来た。 みんなで川で遊んで、冷やしておいたスイカを食べたりもしたし、浜辺で花火をしたりもした。

 雪斗のおじいちゃんは、最初の頃にはとがった印象を受けた孫が、しだいに笑顔の多い孫に変わってゆく姿を、うれしそうに見守っていた。

 だが、そんな雪斗であったが、ついに田舎を離れ、都会に戻るときがやってきた。

 「さようならゆうちゃん、育子ちゃん、それにみんな」

 おじいちゃんの車で、途中まで送ってもらうために、車に乗り込んだら、もう、それで最後であった。

 雪斗は、少しうつむき加減で手を振って、車に乗り込む。その時、勇治が叫んだ。

 「なに言ってんだよ!?さよならなんて言うなアホ!!せめて“また今度”って言え!」

 その時、雪斗はハッとなった。 おそらく、脳裏には、元の生活での自分の周りの環境的に、今後は有名私立中学に入るための、受験戦争に巻き込まれなくてはならないという思いがあったのだ。

 当然、来年、ここに戻れないと、頭の中で勝手に解釈していた。

 雪斗は、じわじわとこみ上げる涙を拭って言い返した。

 「じゃぁね!また来年の夏!!」

 戻れないんじゃない。戻っていいんだ、ボクは

 雪斗は、自分にそう言いきかせて、おじいちゃんに車の発進を、静かに頼んだ。

 「じゃぁなぁあ!!東京でも元気にやれよぉぉお!??」勇治たちは、泣きながら車に走って付いてこようとした。

 ありがとうみんな。この気持ちは忘れない。

 みんなが見えなくなった頃、雪斗は我慢できなくなったように、助手席で、声を出してわんわん泣いた。

 

おわり