〜〜プロローグ〜〜

どこにでもあるような、何の変哲もない幼稚園。

園児たちが騒がしげに、教室中を駆け回るのを、奈々子先生が、マイクを持って沈めようとした。

 『み〜んな〜、いつもそんなふうに騒いでると、こわ〜い怪人が来ちゃうぞぉ〜!?』園児たちは、普段使用されないマイクを見て不思議そうな表情を浮かべたが、しばらくすると、また、取り付かれたようにはしゃぎ始めた。

 

 「ふふ… 元気のいいお子さんたちですね?」

 奈々子先生の隣に、園児たちの見知らぬ、ひげを生やした、スーツ姿の男が現れた。

 サングラスの奥では、鋭い目つきが見え隠れしていた。なんとも、幼稚園という空間に、似つかない存在感を放つ男だ。

 「では、予定通りお願いしますよ。ミス奈々子?」男は、そういい残して、その場を後にした。

 軽く頭を下げてから、男の背中を見送る奈々子先生。

 園児たちは、まだ何も知らされてなかったのだ。 今日、この幼稚園で、企画されている、サプライズな催し物を。

 

 

〜〜第1話 ヒーロー〜〜

 しばらくして、教室中に、奈々子先生の悲鳴が響き、園児たちは、反射的に、先生のほうを振り返る。

 次の瞬間、あわてて、パニックになる教室。

 

 『ガッハハハァ〜!!俺様の名前はフリチンデビル様だぁ〜!!』スピーカーから、いかにも悪そうな怪人の声が響き渡る。

 その声にあわせて、まるで高笑いを浮かべながら、奈々子先生をさらったようなアクションをする、フリチンデビル。

 その姿は、少年であった。

 少年が、全裸の状態に、被り物と悪魔の羽のようなコスチュームに身を包んでいるだけの、何とも滑稽な怪人さんが、そこに立っていた。

 園児たちは、泣いたり、叫んだりで、一瞬にして教室から、平和は奪われた。

 

 (はぁ… 何してんだろ…  ボク)フリチンデビルを演じる、この少年の名は、太郎。

 “劇団おちびの、子役として、現在は全国を転々とし、公演を繰り返している少年であった。

 『太郎』という名前なのだから、せめて格好のいい正義の味方にでもしてくれたら嬉しいのだが、上下関係の厳しさがどこにいっても現れるのが、彼の身を投じた、その世界のルールであった。

 当然、太郎は劇団の中でも下っ端だ。

 そして今日は、この幼稚園に、サプライズヒーローショーを演じに、この劇団がやってきているという訳で、太郎にとってチンチン丸出しで演技をするのも、言ってしまえば、営業活動である。

 

 パニック状況の中で、とらわれている状態の奈々子先生が、軽く余裕とも言える表情で、マイクを使って園児たちに言った。

 『みんな〜!こうなったら、セーラーニーンの助けを呼ぶしかないわぁ!!

 みんな、1,2の3で「セーラーニーン、たすけて〜」って、叫ぶのよぉ!!』

 妙に説明くさいセリフは、相手が園児だから仕方ないにせよ、この幼稚な感じが、実際、この空間に全裸状態で突っ立っている太郎の心に切なくしみるようであった。

 (帰りたいよぉ… )

 スピーカーから流れる、傲慢な怪人の態度とは違い、演じる少年太郎の心境は、そんな物であった。

 だが、一応、役者として、そういう部分を演技中に感じさせるわけにはいかないので、表面的にも傲慢を演じる。太郎には、この場で“怪人フリチンデビル”を演じ通すことに使命感を持っていた。

 『いち、に〜のっ、さんっ』 奈々子先生の掛け声と同時に、園児たち全員がセーラーニーンの助けを呼んだ。

 セーラーニーンとは、現在、テレビで放送されている、美少女戦士のことである。

 セーラー服を着て、忍者的なアクションをするヒーローとして、男女問わず子供たちから、絶大な人気を博しているのだ。

 フリチンデビルとは、8話目に登場した怪人「タキシードデビル」を改造して出来た、オリジナル悪役であった。

 どこをどうひねって、タキシードがフリチンに変わったかは謎が多いところであるが、お金の少ない劇団にとって仕方ない、コスト削減なのだと、太郎は聞かされていた。

 セーラーニーン演じる少女、絵里は、何を隠そう太郎と同級生の女の子だ。

 『出たわね怪人?そんなみっともないモノぷらぷらぶら下げた、お粗末怪人なんて、この愛と勇気の美少女戦士!!セーラーニーンがおしおきよぉ!!』

 太郎と同じく、スピーカーから流れる声に添って、アクションをする絵里。

 『がわぁはははっ!!キサマの様な小娘、このフリチンデビル様が始末してくれるわぁっ!!声にあわせて、両手を広げて、遠くから見ても、笑っているように見せるための動きをするため。太郎が、自分のチンチンを隠すなどという行動、終始取れはしない。

 (へっ、いいザマだねぇ?太郎!!  アタイが、たっぷり可愛がってやるよぉ!)絵里が心の中で叫ぶ。

 セーラーニーン演じる、この絵里という少女。実は、かなり卑怯者のひねくれ者であった。

 (はぁ… こんなんで、良かったのかしら… ?)奈々子先生が、人知れづにため息をついた。良識のある大人なら、当然思うことである。

 園児たちの見つめる、教室というステージでは、空回る演者たちの心境などを裏腹に、セーラーニーンとフリチンデビルの戦いが始まろうとしていた。

 もはやステージの上に立った役者たちは、決められた演技を決められたタイミングでこなすのみ。太郎にも止められるものではなかった。

 ある意味リアルな修羅場っぽい空気の中で、園児たちは、固唾を呑んでセーラーニーンを応援し始めた。

 

 

 

つづく