トシアキは、7時を告げる目覚まし時計に目を覚ますものも、今日が日曜日で学校がないことを思い出し、再び、うとうとと安心して眠り始める。
“2度寝”というモノに、ささやかな幸せを感じる。 こうして昼まで寝ていようと思っていた。
トシアキの性格から言って、休みの日は、のんびりゴロゴロに限った。 こういう気持ちのいい朝に限って、サッカーの誘いがかかったりすることがよくあるが、アレは正直、テンションが下がる。
トシアキは、ライフスタイルものんびりした、ちょっと抜けた部分のある小学5年生であった。
「ふにゃふにゃ… 」
布団の中で幸せそうに、よだれをたらしながら眠るトシアキ。
その時、布団の前で、見知らぬ少女が仁王立ちしているなんて、気が付きもしなかった。
「はいっ! 起きて!?」
少女の声に反応もしないトシアキ。 もう、爆睡モードに突入してしまった彼を起こすのは、彼の母親でも至難の技であった。
「起きてよ!パパっ!?」
少女が、布団の上から揺すりつけるも、トシアキは、意地でも起きようとはしなかった。
「ムッ!!」
頬を膨らめ、少し怒る少女。
眠りを妨げられることに、軽く不快感を感じつつも、布団の中のトシアキは、自分を無理やりに起こそうとする人物を、まだ、母親だと思っていた。
「もぉーっ!パパのバカァ!!」
ドンッ
「むぎゃーっ!」
頭に来た少女は、布団の中のトシアキを蹴りつけて、眠りの国から、強制的に連れ戻したのだ。
トシアキは、ダメージを受けた背中を、なでながら言った。
「痛いじゃないか? ってゆうか、誰!!?」
まだ寝ぼけてはいるものも、自分の部屋に、同級生くらいに見える女の子がいるということには、普通に驚く。
トシアキは、その少女のことを知らなかったし、クラスでも、女子をひきつけるタイプではないため、こういう時の対応には困る。
正直、部屋に女の子を連れ込む時のシュミレーションなんて、小5のトシアキには、まだ考えたこともなかった。
体を半分起こしたまま、布団から出られない。 なぜなら、ズボンをはかずに寝ていたので、そこから出たらパンツを見られてしまうためだ。
一応、ナイーブな性格のトシアキは、パンツといえど見せたくはない。しかも、クラスでもレアなブリーフ派。 同じ男子にさえバカにされるパンツを、女の子にはなおさら見せたくはなかった。
頭が、まともに働くようになってきたトシアキは、姿勢を変えないまま、もう1度、尋ねた。
「で? き、君… 誰??」
自然と、恐る恐るの質問になってしまった。
少女は、布団から少し距離をおき、畳に腰を下ろしてから、こう答えた。
「私はルナ。 …アンタの娘だよ!!」
ぶっきらぼうに答えるルナと名乗る少女に、トシアキはキョトンとした。
「何言ってんの? ボク、11歳なんだよ?まだ… 。」
「私は12歳だ!!」
「じゃ、じゃぁなおさら意味不明じゃないっ??」
軽く取り乱すトシアキに比べ、ルナは腕組みをして堂々としていた。 なんだか、ボーイッシュな印象を受ける少女である。
「私は、未来から一瞬だけタイムスリップすることを許されて、ここにいるんだよ!!
アンタとは、未来で出会うことになる実の娘だ。」
「タ、タイムスリップ!? み、未来には、そんなモンまで出来るの?」
トシアキは、まずそこの問題に食いついた。 彼女が、実の娘と語るのを忘れたかのように、タイムマシンについて、やたらと詳しく聞きたがる。
ルナは、そんな彼に、痺れを切らしたかのように、オデコを叩いた。
「いてっ!」
「今そこはいいんだよ!こっちも、時間がないんだ!!
私は言いたいことが山ほどあって、ここに来たんだ!!」
ルナは、そう言って、トシアキにジャンケンのパーを出した。
「細かいことは言わないけど、5つ!よく聞いてよね!?
勉強しなさい! 運動しなさい! 人の話はよく聞きなさい!
物をよく噛んで食べなさい!!」ルナは、1つずつ指をおって数えていった。 正直、トシアキには、この時点で、耳にタコが出来るくらい言われ続けてきた言葉であった。
未来からやってきた娘にまで言われるなんて、さすがに頭が痛い。
「そして最後!!」ルナは立ち上がって、布団のはしを握り、思いっきり引っ張った。
「うじうじしてないで、もっと男らしくしろっ!!」
「うわぁあっ!!」なんだか本気で怒られているうえ、いきなりパンツまで見られ、立場もへったくれもないトシアキ。
自分の部屋の中といえども、なんだかアウェーな気持ちであった。

「パパのせいで、私たち子供は、ホンッッッッット、苦労するんだからねっ!!今日は、みっちりそれを身に叩き込んでもらうわよ!?」
「ちょっ、私たちって… ボク何人子供生むの?」
「生むのはママでしょ!? しっかりしなさい!!」
「ひぃぃ!!」てんで立場のないトシアキ。 そんな弱弱しい、過去の父親を見て、ルナは、更にイライラし始める。
この様子だと、本当に、未来では相当苦労しているのであろう。
「私が生まれた後、9人も子供作るのよ!!」
「きゅ、九人も??じゃ、足して10人?? む、無理無理っ! ボクってそんなにスケール大きくないんだもん!!」
「自信満々に言うなぁ!!」
いきなり弱音を吐くトシアキに、ルナは蹴りを浴びせた。
なるほど、コレが10人の兄弟のトップに立つものの蹴りかと思えるほどに、威力を秘めている。
「と、と、と、とりあえず落ち着こう??」
蹴られたショックを隠しながら、必死で冷静に見せかけようとするトシアキ。
ルナは、頭をかきながら、静かにうなずいた。
