「ママァ、お腹すいたぁ!! オッパイちょうだい!?」

 「はぁい、はい! 全く、ノリちゃんは食いしん坊でちゅねぇ?」そう言いながら、ペロンと露出された母親の乳房に、憲男は、むしゃぶりついた。

 決して、乳飲み子というほど、小さな体はしていない。

 むしろ、こうして、母親に授乳を促すこと自体が、間違っている年頃である。

 こんな憲男も、もう今年で中学生。

 これは、異様なまでに子離れできない母親に育てられた、これまた、異様なまでに、母親離れできない子供の物語である。

 

 「ママァ!お風呂の時間だよぉ、入ろう?」

 「はいはい、ノリちゃん、お洋服脱ぎ脱ぎしましょうねぇ?」一緒に風呂に入ることを促す息子の服を、丁寧に脱がす母親。

 一般的に、中学生にもなる子供が、親と一緒に風呂になんて入りたがらない。

 だが、この2人は、一緒に入らなかったことがないと言ってもいいくらいだ。

 つまり、生まれてからこのかた、1回も、ということである。 憲男が、学校の修学旅行等で、どうしても入れないという状況になれば、母は、無理やりにでも修学旅行に参加したがる。周りの少年たちから見ても、かなりの狂いっぷりを持った親子関係であった。

 

 「ママ、見て? ノリちゃんのチンチン。また毛が伸びてるみたい!」

 「まぁ、可愛いチンチンに、おけけがぁ!もうこんなに。

 やっぱり成長期は早いもんでちゅねぇ?」

 お風呂の中、息子の、性器周辺に生えた毛を、指で引っ張りながら、母親は言った。

 やはり、母親としては、息子の成長の、喜びの奥には、残念な気持ちもあった。 ずっと子供のままでいてほしいと思う母親。

 この母親の性格からして、息子が大人になってゆくことを、特に悲しむタイプである。

 「ねぇママ!ノリちゃんが、背中洗ってあげる!」

 この少年、自分のことを“ノリちゃん”と呼ぶ所からして、周りの少年と見比べても、相当な知遅れ感を漂わせている。

 実際、彼は頭がよくない。母親がやれといったことは、何でもやってしまう。

 彼の母親がYESと言ったものが正解、NOと言ったものが不正解。 彼の判断基準なんて、本当にそんなものであった。

 「ノリちゃんは、本当にいい子でちゅねぇ!?」

 背中を流されながら、母親が呟いた。

 「うん。ノリちゃん、いい子だよ!!」息子は、ニコニコしながら答えた。

 はたから見れば、ヘドが出るほどに熱い親子関係。

 実際、幼少期から、いつまでも続けられる、この母子関係に、見るのも嫌になった父親は、音信不通のまま、家を飛び出した。

 「ノリちゃんは、ママのこと裏切らないよ?」

 この息子の優しい言葉に、母親は、泣き出しそうになった。

 

 

 つづく