どこにでもあるような中学校。

 そのグラウンドの奥のほうにある、相撲部の稽古場は、まるで活気がなく、寂しい場所となっていた。

 「ふぅ… じゃぁ…  どうしようか?」

 3年生で、相撲部のキャプテンである小西は、困ったように、大きなお腹を叩きながら、呟いた。

 「参ったな… 俺って、人に物を教えるレベルじゃないんだけどな…」

 小西は、困り続けたまま、稽古場をきょろきょろと見渡した。 それでも、たいした解決にはならなかった。

 小西を、悩ませるもの、それは、新しく入ってきた1年生の存在であった。

 それまでは、部員数、小西1人のみという、超崖っぷちクラブであったため、小西の卒業と同時に、自然と廃部の流れとなるはずの部活であったのだ。

 そんな、相撲部というよりも、“小西部”と皮肉で言われるような部活に、新入生が入ったことで、小西は、いつも1人でやってきたような、グダグダ稽古を、後輩と一緒にやらねばならないことになったのである。

 しかも、たった1人で入ってきたニューフェイスは、とても身長が低く、体も細い。

 パッと見、なんだかいまどきの若者風の少年に見える彼は、こんな寂れた場所でフンドシまわしてるよりも、ユニフォームを着て、走り回ってるほうが、お似合いであった。

 とても、相撲という言葉には、程遠い少年が、何を思ってか、入部してきたのである。

 新入りの1年生の名前は尾畑。

 見かけによらず、まっすぐで、素直な性格。 しかも、下っ端ということを、きちんと自覚して、いろいろ動けるタイプの、よく出来た少年であった。

 とても相撲部にはもったい人材である。

 尾畑が、心の底から真剣に相撲をやりたがるため、小西も妥協しにくいところがあった。

 「じゃぁ… まぁ…  まわしでも付けてみるか?」

 「はい!!」

 「お… おぅ、気合はいってんな?」

 尾畑の威勢の良い返事に、小西は、やりずらさを感じながら、置いてあったまわしを取った。

 実際、わざわざまわしまで付けて稽古に望むなんて、1年生のとき以来であった。

 後輩の前で、裸になってまわしを付けるということが、恥ずかしく感じられる。

 当たり前の相撲部なら、それにも慣れる問題であろうが、尾畑の前で着替えようということは、なんだか、サッカー少年の前で着替えてる間隔で、同じ相撲部の人間の前で着替えるのとは、違う気がした。

 しかし、人から裸を見られるということも、相撲部の覚悟として、気にしてはいられないことだ。

 小西は、潔く、尾畑の前で全裸になった。

 尾畑は、体操服着用のまま、じっと小西のことを見ていた。

 心なしか、その目線は、股間に向けられているように感じられる。

 「何じろじろ見てんの尾畑? お前も、脱ぐんだぜ…?」

 「はっ、はいっ!!」

 尾畑は、また元気な返事を返して、急いで服を脱ぎ始めた。

 「変なヤツ… 」小西は、なんだか、思わずそう呟いてしまった。

 「こっ、小西先輩!? お、おれっ、まわしの付け方わかんないっす!」

 尾畑は、全裸になって、しどろもどろしながら言った。 だが、偉いことに、股間は隠さない。

 「おっ、まだ生えてないんだ?」

 「は… はい」尾畑は、カァァと顔を赤らめながら答えた。

 「まぁ気にすんなよ? 俺が卒業するまでは、見られると思っとけ?」

 「はっ、はい!!」

 「いい返事だ。」

 そう言い、小西は、まわしの付け方を、丁寧に教えた。

 もしかしたら、小西がまともに教えられることは、まわしの付け方くらいのものかもしれなかった。

 「こ、小西先輩?」

 「ん?」

 「お、おれ… 強くなります!絶対!!」

 「お、おぅ… まぁ、俺も、出来る限りのことはするわ。」

 

 

 つづく