おれの名前はナオト。ちょっぴりセンチな13歳。

 こんなピチピチの若さにして、6歳で、テレビデビューを果たした、お笑い芸人でもあるんだ。

 今年で、芸暦も7年目。そろそろ、芸能界という、独特の世界のルールも、分かってきた。

 おれはいままで、若さを武器に、好き勝手やってきたが、そろそろ、キャラクターをオトナにしないと、世間から見捨てられてしまうであろうコト、間違いなしであった。

 まぁ、といっても、おれの芸風ってのが、ブリーフ1枚で、サンバを踊るだけのネタだったから、こうやって、厳しい芸能界を生き抜いてきたのも、単に、少年芸人というポジションが、希少であったからに過ぎないんだろうネ。

 世間は、おれの面白さが分からないという人間のほうが多い。

 子供だからって、いつまでも人気者でいられる。なんて、大それた考えは持っていない。

 事務所のほうも、おれにもっとトークの腕を磨くようにと、さまざまなアドバイスをしてくれている。

 いろんな人に支えられて、俺は芸能界を生きてるんだなぁと思う日もあれば、何もかもが嫌になる日だってある。

 何せ、俺はもうすぐ思春期ってヤツを迎える、お年頃。

 ブリーフ1枚でネタをやるのも、我ながら、抵抗が生まれ始めてきた。

 

 おれには、相方もいないし、1人で自分の笑いを引き出して行くことは、結構大変なんだ。

 おれは正直、ココに来て、芸能界に軽い行きづまりを感じ始めていた。

 頭だって、良いとは言えないし、おれには、もう、芸能界でしか生きていけないような気持ちに襲われることもある。

 

 逃げようのない運命に、あまりものを考えていなかった年齢から、足を突っ込んでいた、おれの人生。

 どこに逃げ隠れしようと、世間は、おれの顔を、もう覚えていた。

 

 

 そんなある日、俺は、某バラエティ番組の、芸人対決に参加することになったんだ。

 

 「えっ!?銭湯でボケ対決ですかぁ!?」

 「そうだよ?体を張って笑いをとるのが、ナオトの得意技だろ!?

 都合のいい仕事じゃないか?」おれの気持ちなんて、まるで気にもしていないように、マネージャーは言い放った。

 確かに、体を張って笑いをとるのがおれのスタイルであったが、銭湯といえば、当然裸になれということでもある。

 モチロン、自分のやりたい様にボケれば良いので、脱がなくてはいけないという決まりはない。

 だけど、おれの芸風からいって、脱がないのは不自然だ。

 なんだか最近、こういう汚れ仕事も増えてきたように感じられる。

 噂に聞いたところ、おれの裸は、一部では、かなり受けが良く、毎回高視聴率をたたき出しているのだという。

 視聴率のために、裸になれというのが、ストレートな答えなのだろう。

 

 

 芸人対決で、ついにおれの番が回ってきた。

 当然、おれと対決することとなった、周りの芸人さんたちも、裸になって、フルパワーで笑いをとりにいっていた。

 ここで、自分の芸人魂を見せないと、今までやってきたことが馬鹿らしい。

 おれは、カメラが回っている前でも、はずかしむ様子を見せずに、フリチンになってやった。

 おれの生えかけのチンコを見て、周りのスタッフが笑う。

 そりゃ、人を笑わせることは大好きなんだが、こんなことで、笑われるのは、正直ゴメンである。

 その時であった。

 プロデューサーが突然乱入してきて、いったんカメラを回すのを止めた。

 「なんすか?コレ、やらせなしのガチンコ対決じゃなかったんすか?」流れを勝手に止められたおれは、ハッキリ言って頭にきていた。

 そんなおれにむかい、プロデューサーは、媚びるような表情で、こう言いやがった。

 「ナオトくぅ〜ん!?悪いけど、チンチンの毛…  剃ってくれないかなぁ?」

 「はぁ!?なんで!!」アホ過ぎる注文に、おれの声は思わず裏返った。

 「なんて言うかさぁ…  生えてたらオンエアの時、モザイク入れないといけないんだよねぇ・・・?」

 なに言ってんだ、この豚ヤロウは?

 まさか、この男、オンエアのときに、おれのチンコにモザイクは付けないつもりなのか?

 冗談じゃない。おれだって、一応人権ってものがあるんだぞ!?

 そう思って俺は、切れて、プロデューサーに言い返してやった。

 「そんなこと嫌ですっ!!」

 その瞬間、血相を変えて、おれのマネージャーが飛び込んできた。

 「ナオトくん?困るよ!? この方、誰だか知らないのSプロデューサーだよ! ジャパンテレビで知らないものはいないくらいの、凄腕プロデューサーなんだよっ!?」

 「だからってマネージャー!!?!」

 「分かってるだろ?この世界は、コネと体で勝ち抜いていくんだ!!」マネージャーは、逆ギレに近いような、強い物言いで、おれに圧力をかけてきた。

 なんてヤツだ、ちくしょう。

 芸能界が分かり始めてくると、こいつらの言ってることも、分かる。

 おれの裸が、視聴率を取れる道具になるから、今のうちに使っていくということなのであろう。

 分かっているぶん、なんだか泣けてきた。

 「芸人根性ないの?」このプロデューサーの一言に、おれはついに吹っ切れた。

 

 

 おれは、エキストラに並んで、銭湯の洗い場に座り、泣く泣くチン毛を剃った。

 屈辱以外の何者でもなかった。一応、こんなおれだって人の子だ。  家に帰れば、両親も妹も、俺を温かく迎えてくれる。

 家の中でも、おれが一番稼いでいるくらいだ。どうして、こんなに頑張っているのだろうと思ったりもするが、一応『家族のために頑張ろう』なんて、奇麗事で、自分の心を無理やり整理した。

 どこに、ココまで考えられる13歳がいるんだと、自分でも思うくらいだ。

 

 チン毛は、本当に少ししか生えていなかったし、大人と違って、まだ質感が柔らかかったので、すぐに剃り終えた。

 

 

 「じゃぁ、気を改めて、テイク2! スタート!!」プロデューサーは、いささかご機嫌な様子で、メガホンを握りなおした。

 視聴率さえ取れれば、なんでもするような、このプロデューサーには、吐き気にも似た、怒りを覚える。

 しかし、どこに行ったとしても、テレビの人間なんて、そんな連中ばかりであることも事実だ。

 

 少なくとも、カメラの回っているところでは、おれは、羞恥心もプライドの捨てた。

 そうさせるのは、おれが7年間で習得していった『芸人魂』以外の、なにものでもない。

  

数日後

 おれは、恐る恐るあの番組のオンエアを見ることにした。

 そこでのおれのミスは、家族全員でそのオンエアを見たことであった。

 

 「ぎゃぁぁああ!!」ブラウン管を通じて映し出されたおれの全裸に、おれは思わず大声を上げて、チャンネルを変えようとした。

 しかし、父さんがそれを阻止した。

 「ナオト?お前のチンチン、まだツルツルなんだな?」父さんが、おれに言った。

 よくこんな場面で、おれのキズをえぐるような事を言ってくれるなと思った。

 「あわわっ!兄ちゃんのチンチンがアップになった!!」妹が、顔を赤らめながら言った。

 「っげ!!」おれは自分の目を疑った。

 このカメラマン、なにを調子に乗っているのか、おれのチンコをモロにドアップで映したではないか。

 馬鹿か?この番組のスタッフは!?

 せめて、編集で、こういうことはオブラードに包んで笑いに変えるのが定番であろう、と思った。

 この映像を見ているのは家族全員だけではない。日本全国の人間が見ているのだ。

 「冗談じゃない!馬鹿じゃないの!」おれは、家族の前で、初めて泣いた。

 中学生になって、赤ちゃんのように泣いた。

 明日から、どうやって… どんな顔をしてこの国を歩いたらいいんだ!?

 おれは、家族の目も気にせず、わんわん泣いた。

 

 

おわり