「あ〜っ、今日も1日、疲れたなぁ・・・」

 一平は、風呂から上がると、すぐに、ベッドの上に倒れこんだ。

 今日のサッカー部の練習は、いつもより数段ハードであった。いくら一平がヤングとはいえ、確実に、明日に後を引く疲労感だ。

 (あぁ、今日くらいはオナニーしなくてもいいか…? いいだろ!)一平は、自然と重くなるまぶたと、遠のく意識の中、そんなことしか考えていなかった。

 一平は、まさに、今が発情期。

 見境なく、敏感に下半身が反応しちゃうお年頃である。

 授業中だって、部活中だって意味もなく、勃起しちゃうことなんて、よくよく考えれば日常茶飯事。

 自慰行為を覚えてからは、毎日、欠かすことなく、それを続けていた。

 一日の最後の締めは、ベッドの中で、こすり付けオナニー。そして、そのまま眠りに落ちることが、習慣化されつつあった。

 (1日くらいサボったって、金玉爆発するくらいは精子もできないよな・・・?)

 そんな必要もない不安を持ちながらも、一平は、体を動かす気力ももう、失われていた。

 強烈な睡魔よ、ようこそいらっしゃいました。と言った気分だ。

 まだドライヤーで十分に乾かせていない髪の毛は、翌朝になると、すごいボンバーヘアーになるのであろう。

 だが、そんなことは、本人は一切気にもしない。

 豆電球のわずかな明かりにともされた一平の部屋には、たちまちスースーとかわいらしい寝息がこもれはじめた。

 (あれ?なんで俺・・・ こんな所に?)

 一平は、教室の中でポツンと立っている自分に、少しだけ戸惑った。

 そして、しばらくして悟る。

 (あぁ、ここは夢の中ね・・・)

 体は、踊りだしたいくらい軽やかで、教室の窓から天空へと飛び出していけそうな気分であった。

 ふわふわとした感覚。

 春のこもれ日みたいな、温かさ。真夏のように澄み切った青空が、教室の窓から見える。一平にとって、そこはとても気持ちのいい世界であった。

 誰もいない教室は、掃除時間でとまっているようであった。どうして、そうなのかは分からなかったが、一平の潜在意識の中で、この瞬間に、何か感じるものがあったのかもしれない。

 (それにしても、できた夢だ・・・ ちゃんと、感覚はある。)一平は、自分の頬をつねりながら、そう思った。

 本気でつねっている頬でも、鈍い痛みでしかなかった。夢の世界とだけあって、感覚に関しては、少しオマヌケな部分もあるようだ。

 (そうだ。夢の中で夢と気づいたら、自分の思い通りにできるんだよな!?)一平は、心のままに、教室の窓を開け、そこから飛び立とうとした。

 (・・・)

だが、何も起きない。思い通りにもいかない。

 夢の中だと言うのに、チンケなものだ。

 一平は、気を取り直して、改めて、教室を見渡した。

 何度も思うように、本当に、よくできた夢であった。机の配置から、何から、すべてが、うまく出来すぎている。

 一平の普段の集中力からしても、そこまで忠実に黙認できているとは、到底思えないものだ。

 (これって夢なのかな?本当に・・・?)

 次第に、一平はそんな不安を抱くようになってきた。

 もう一度頬をつねる。

 先ほどよりも、感覚は研ぎ澄まされてきているようで、きちんとした痛みを覚えた。

 大きく深呼吸をすると、自分が息をしていると言う確かな感覚。

 指を舐めて臭いを嗅いでみると、嗅覚までも、まともに働き出していた。

 

 夢の中のはずなのに、どんどんリアル(現実)に近づいてゆくのが分かる。

 だからと言って、恐怖なんてものはなかった。むしろ、期待と興奮で、胸が弾んでいるくらいだ。

 一平は、腹のそこから空気を吸い込んで、叫んだ。

 教室の空気が揺らぐ。

 (なんていい気分なんだ!!)

 そんな大声を出したのは、久しぶりであった。喉の震えがしばらく余韻として残るほどの大声。

 一平の脳は、それを機に覚醒されてゆくようであった。

 五感すべてが、リアルと化してゆく。

 踏み出せば重力も感じられ、前へと進める。

 

 一平は、本当に現実の写し世である、パラレルワールドか何かに、吸い込まれたようであった。

 

 

つづく