5月でも、昼間ともなれば、半袖で十分に過ごせてしまうほどの気温である。
少し体を動かした私は、額に溜まった汗を、手の甲でぬぐいながら、体育館に向かう通路の途中に置かれた、ウォータークーラーの水を、がぶ飲みした。
一仕事終えた後に飲む、この冷たい水が、なんともいいがたく、おいしい。
こうして、汗をかいているのは、体育の授業があったからでも、部活の途中だからでもない。
こみ上げてくる、この感情は、私の好きな男子の上履きを盗むという、犯行に成功した後での、達成感だ。
私は、かばんのチャックを少しだけ開けて、先ほど盗んだ、その上履きを、まじまじと眺めた。
中からは、紛れもない、彼の上履きが、顔をのぞかせている。
あぁ、なんということでしょう。
この上履きは、私の愛する、あの子が、普段から履いている靴、彼のアロマテイストのしみついた、この世の中で、最も価値のある上履き。
盗み出してみれば、こうして、手にしてみたかったものは、案外あっけなく手に入るもの。
あぁ、それにしてもいとおしい。
早く家に帰って、肺の隅々にまで、このアロマを吸い込みたい・・・
私は、彼のことを考えると、他ならない感情におぼれそうになる。
上履きが盗まれたと分かった途端に、表面的には怒りを見せながらも悲しむ表情… 目にうっすらと涙を浮かべる表情・・・ そんなことを想像してみる。
あぁ、なんと素晴らしい。
彼のすべてを奪ってしまいたい・・・。
彼をこの私だけのものにしてしまいたい・・・。
考えるだけで、股間が濡れてくる。野生の獣のごとく、本能のままに生きるのなれば、私は、今ここで迷いもなく、自分の淫核に指を伸ばしていることだろう。
いや、彼を犯しているのかもしれない。
そう、着ている服をすべて剥ぎ取って・・・ 羞恥心に耐えながら、私をにらみつける彼に、私は・・・。
私の生きがいは、俊くん(しゅん)そのもとと言わざるを得ない。
俊くんとは、私の同級生の男の子であり、小学校時代から、私は彼のことを見てきた。ずっとずっと見てきた。
俊くんを言い表す言葉を探せば、天真爛漫な天使。と言ったところ。
それでも天使は、弱さを見せるのを嫌がり、泣くことを必死で避けようとするの。
あぁ、なんと可愛らしい坊や。
彼は、私よりも背が小さいし、まだそれほどに、自我というものを自覚していないように思える少年。
私は、思春期というものを迎えるようになってからは、異性に対しての考え方、見方が大きく変わってきた。
所詮、男と女は違う生命体。
そう分かった時から、私は男という生き物に対して、異常なまでの興味を抱き始めた。
ただし、対象についてはただ1人。そう、俊くんのみであったけどね。
次第に感情にコントロールがつけられなくなってきた私は、彼の所有物を、盗む行為から覚えた。
それでも満足できなくなった私は、彼の家から出たゴミをあさるようになったわ。
それでも、満足が出来るような収穫があることなんて少なく、私は、彼の行動を常に監視することにしたの。
彼の親友ともいえそうな人物には、徹底した嫌がらせを与えたわ。
俊くんと仲良くすれば、自分に災いが起きるということを、せいぜい少ない脳みその中で理解すればいいのよ。
だって、俊くんと仲良くおしゃべりする権利があるのは、世界でただ1人、そう、この私なんですから。
俊くんを縛り付けるものは、たとえ、それが、彼の両親であろうと、この私が許さない。
そんな日々が続き、さすがに、俊くんも、お察しがついたみたい。
この私の愛情にね。
もうここまできたら、準備は整っているようなものよね。
私は、決意したわ。
明日、俊くんを、この手で私だけのものにする。 私色に汚し、もう他の人間を愛せないくらいにしてあげるの。
そう、世間的に広く使われている言葉を用いれば『レイプ』ね。
私は、明日俊くんをレイプする。
あぁ、考えるだけで興奮しちゃう・・・ 。
怒りに上ずる声・・・ 頬を真っ赤に染める表情・・・ 女に襲われプライドを傷つけられる一瞬・・・
あぁ、なんと素晴らしいのかしら・・・。
そして日があけた。
犯行当日がやってきたのだ。
今日、久しぶりに、面と向かって俊くんとお話しすることになるのね。
さすがに、今日という今日は、身だしなみくらいは、整えておかないと!と思い、本当に、久しぶりに、私は自分の顔を鏡で確認したわ。
俊くんのストーキングをはじめてからは、体重が、ピークよりも5キロ以上も減った… 食事ものどに入らないほどに、彼のことをいつも思っていたのだから、まぁ、当然の話。
目はくぼみ、頬はこけて骨が張っていた。
自分でも驚くくらいに、ひどい顔。目は充血して、ギョロリと威嚇的だし、顔色だって、生きた人間のそれとは違って見える。
あぁ、私は、それでもこうして生きてきたのだなぁ・・・ 本当にそうだったかなぁ・・・
いやっ、違う。
私は、本来なら、美人というジャンルに分類されるような女子生徒であったはず。
それなのに、何だ?今の自分は?
私は、次第に、許せなくなってきた。
何が許せなかったって、私をここまで追い詰めた俊くんそのものの存在だ…。
「でもね・・・ この気持ちも今日で終わる・・・
俊くんは、今日をもって完全に私の手に落ちるの・・・ 」
私は、部屋で、独り言を、ぶつぶつと繰り返しながら、かばんの中に、荷物を詰め込んだ。
巨大なディルド、ローション、蝋燭・・・
さまざまな拷問具を詰め込んだ・・・。
来るわ、あと数メートル。
私は、彼が学校から帰るのを見計らって、物陰に身を潜めた。
通り過ぎる生ぬるい風、あぁ、はやく・・・はやく来て。私の元に・・・。
俊くんは、私の気配などにも気付かずに、目の前を通過していった。
無視しているの?じらしているの? どこに隠れていたって見つけてくれなくちゃだめじゃない。
私は、ゆっくりゆっくりと、彼の後をつけた。
人通りの少ない道に入れば、一気に襲い掛かろうか・・・、それとも、家の前まで先回りしておこうか。
心拍数が上がってくる。どうやら、人並みに緊張しているようだ。
無理もない、だってこれから私は・・・
そのとき、俊くんは急にきびすを返して、私に振り返った。
あまりに突然だったもので、とっさに回避行動もとれずに、私は、ついに、彼の目線に捕まった。
そしたら、俊くんは、こう言った。
「お前。 キモイぜ?」
たった一言。それだけを言うと、不機嫌そうに、舌打ちをしてから、家路へと走り始めた。
キモイ?それは、気持ちが悪いって事なの?
・・・この私が。
冗談じゃない。いくら俊くんの言葉とはいえ、撤回させなければならない言葉。
瞬間湯沸かし器のように、一気にボルテージが上がったように感じた。
許さない!許さない!!
「まちやがれぇぇえぇええええ!!」私は、確かに大声でそう叫んでいたことを覚えている。
俊くんは、全力疾走で私から逃げる。
私はというと、彼の走りに体力がついていけてなかった。もっと、栄養を蓄えて、今日に備えるべきだったのかしら。
少し走っただけで、激しい立眩みと、めまいに襲われる。
それでも私は走った。
くじけそうになっても走った。
だって目の前には、ずっと憧れていた俊くんがいるんだから。
逃がしてたまるものですか。
私は、走りながら、背中からかばんを下ろし、チャックを強引に開いて、おもむろに中に手を入れた。
硬く、ぬくもりのない金属物質が指に触れる。
あったあった。かばんの中に隠しておいた、コンパクトボーガン。
ネットの違法な武器サイトを通じてやっと手にした、十分な殺傷能力を秘めし飛び道具。
正直、これを一番最初に活用することになるなんて思ってもなかったわ。あくまでコレは、最後に、命乞いをする俊くんの頭を射抜くために用意しておいた、最終兵器だったんですもの。
脳天から噴射される鮮血が見たかったのは確かだけど、今はとにかく、彼の足を止めないと。
私は、走りながらも手際よく、矢のセットを始めた。
「ぐわぁ!!」
彼は、幼い悲鳴を上げて、地面に倒れこんだ。
私の放ったボーガンの矢が、左大腿部を貫通したのだ。
眉間にしわを寄せ集めて、苦しむ彼。
私は、やっとのことで、彼の目の前にまで足を運んだ。
ボーガンの射程距離からしても、まさか、ここまでうまく命中するとは、さすがに思ってなかった私。 これも、きっと神様が私に微笑んでくれている証拠なのでしょう。
死神だけどね。
それにしても、かわいらしい泣き声、私の足元で小動物のような声でもがく彼ときたら、まるで天使。
あぁ、なんと素晴らしい。
どうやら、私たち2人を取り巻く周囲は、騒ぎ出したみたいね。
無理もないか・・・ こんなに堂々とした場所だもの。
でもそんなことは、どうでもいいの。
今は、目の前で苦しむ俊くんの裸が見たい。見たい。見たい、今すぐに見たい。
「裸がぁっ!見たいぃぃぃいっ!!」気がつけば自分でも、冗談でしょうと、笑いたくなるほどの、口調で叫んでいたわ。
私はポケットから折りたたみ式のナイフを取り出し、彼のベルトを切りはずそうとした。
次の瞬間、背を向けて逃げ出そうとする彼。
そのおかげで、あやまって、彼のアナルを思いっきり刺しちゃったじゃない・・・。
あぁ、痛そう。
案外ズボンやパンツなどの布は、貫通したという手ごたえを感じさせるものではなかった、それにしても刃物というものは簡単に人体を傷つけるものだ。
直接目では確認できなかったけど、位置からして、完全にお尻の穴に、ナイフが縦に刺さっちゃってる。
「いたぁぁあああいっ!いたいよぉぉおっ!!」
それでまた、彼の悲鳴ときたら、大地を揺るがすほどの大声なんだから。
思わず、勢いよくナイフを抜き取って、今度は脊髄に向かって、もう一刺し。
その瞬間、がくんと崩れ落ちる彼。
下半身からは、薄汚れた血が流れ出して、コンクリートに広がっていった。
大人の人が、止めに入ろうと近づいてきた。
邪魔しないで。
私は立ち上がり、手当たりしだいの人間に切りかかったわ。
やっと回りを振り払って、俊くんを抱きしめた時は、もう、息をしていなかった。
冷たくなり始めていた。
あぁ、なんという・・・
これじゃ2度と、生きた彼の、恐怖におびえる悲鳴を聞けないじゃない。
人間って、どこまでもろい生き物だというの?
虫だって、頭をもがれたところで、しばらく生きてるというのに・・・
私は、彼を抱きかかえ、口付けを交わした。
血なまぐさい、おマヌケな初恋の味。
それでも、それが私たちの愛の形なのだから。
私は、彼の血で濡れたナイフで、自分の頚動脈を切りつけた。
薄れてゆく意識の中で感じたわ。
私たちの愛が、永遠へと変わって行く瞬間を・・・
あぁ、なんと素晴らしい・・・ 。
おわり
