世の中には、努力しても実らない人がいれば、あまり努力しないで実る人もいる。

 あまり平等とはいえない人間らしさの中でも、ハク(博)は、間違いなく後者に選ばれる人材であった。

 ハクの頭脳は、そこらへんで、もてはやされている“天才”の存在が、小さく感じられるほどに、超が付くほどのそれであり、彼は10歳の若さにして、ハーバード大学に飛び級で進学し、14歳の今に至っていた。

 専門分野として、教育学の化学分析化を図るという活動をしており、今回は、卒業論文の一環として、日本に戻り、教育理念やロジックを再認識するために、とある私立の小学校で、林間学校の特別講師として、招かれることとなったのだ。

 ハクは、自分が小学生のみんなと、年も近いことがあり、当然、仲良くしていけるものだと考えていた。

 その目は自信に満ち溢れていた。

 天才特有の、ゆるぎないビジョンともいえるもの。

 ハクは自分自身が、周りの人間よりも優れていることを理解していたが、それも、もう何度も同じ考えを通り越して、自分の頭脳で、日本の教育体制を変えていきたいという、確固たるビジョンへと変わっていた。

 自分のために使う能力ではなく、他人のために、社会のために、何ができようかという結論に到達したのだ。

 それも、日本の教育はこのままだとまずい。それを変えていけるのは、おそらくは、もう自分しかいないのだろうという自負心が、彼を動かすかもしれない。

 

 

 「林間学校。言われてみれば、僕が彼らと同じ5年生のときは、海外に行っていましたからね?

 僕自身もいい経験になると思います。」

 「それにしても、大丈夫かい?

 ハク君が頭がいいのは認めるけど、体だって、まだまだ幼いような14歳だし、今回の仕事が初めてだって言うなら、教育現場の仕事が、嫌いになるかもしれないよ?」

 ハクの担当することとなった5年3組の担任が、心配するように尋ねた。

 確かにハクの外見は、幼くて弱弱しい。5年3組の中にも、ハクの身長を越えるものが、ちらほらいるくらいだ。

 それに、担任は、5年3組の生徒たちが、ハクと仲良くできるのかどうかという不安を抱えていた。

 なぜならこの先生は、ハクとこうして一緒に話しているだけで、彼の言っている言葉が難しすぎて、理解に苦しむ部分が多かったためだ。

 大人で、それなりに学のある先生でさえ、こうなのだから、子供たちが、彼の言うことを、すべてを理解できるなんて、到底思えはしなかった。

 

 

 「皆さん、こんにちは。始めまして。

 僕は、ハーバード大学というところから、みんなの林間学校を楽しくサポートするためにやってきた、ハクという者です。

 みんなは僕のことを、ハク先生って呼んでね!?」

 5年3組の前に立ったハクは、にっこりと笑顔で自己紹介を始めた。

 先生の抱いた心配は、どうやら取り越し苦労であったようで、ハクは、生徒たちの前では、子供の心をつかむようなしゃべり方で、自己紹介をしていた。

 生徒たちの反応も良好で、早速この幼いハク先生と、お友達になりたいと考えた生徒は多かったみたいだ。

 さすが天才というだけあって、身の振舞い方が、要所要所でうまい。

 先生は、そんなハクのことを心から感心しながらも、そんな滑り出しで、厳しく楽しい林間学校が始まっていった。

    

 

    

 「それにしても、あのハク君は、本当に働き者ですね?

 大人の私たちでさえ、手も足も出ませんよ!ハハハッ!!」

 「確かにそうかもしれませんけど、こういう機会に先生のすごいところを見せたほうがいいんじゃありませんか?

 こんなところで、突っ立ってタバコ吹かしてるようじゃ、3組の生徒たちも残念がるでしょう!?」

 「あなたが言いなさんな? じゃぁ、2組の生徒はどうなるんですか?」

 「うちの生徒は、私のキャラクター分かってますから!」

 「あっそうですか。はいはい!!」

 ハクが担当する3組の担任教員と、5年2組の先生が、仲良く肩を並べながらタバコを吸って、話しこんでいた。

 一生懸命に、協力し合って、カレーを作っている生徒たちを見ながらのタバコの味は、また格別あったという。

 普段は、子供扱いしていた生徒も、こうやって見ていると、大人に感じるようなところがあったりして、これがまた、いい味出ているのだ。

 2人は、しみじみとしながら、タバコを吸っていた。

 「それにしても、あのハク君。

 まだまだ子供なのに、すごいよな?なんとなくで教師になった俺なんかとは、ぜんぜん違うって言うか、俺、14歳のときなんて、何にも考えてなかったし!!」

 「だよなぁ!?」

 2人は眺めるように、ハクの働きに目をやった。

 作業用のジャージをひざの上までまくって、半ズボンみたいな履きかたをしていた。そこからすらりと伸びる、しなやかな生足には、すね毛なんてものは、微塵も生えていなかった。

 きれいな肌が、汗をにじませていて、やたら艶やかに見えた。

 顔立ちだって、キリッとしていると言うか、はっきりしているというか、“容姿端麗”という表現がよく似合う美少年だ。

 才色兼備の究極を突き詰めたような少年が、目の前で汗を流しているという実感、それが、2人の先生に、なんともいえない違和感を覚えさせた。

 

 

 みんなで協力して作ったカレーを食べた後は、食器の片付けをし、取り合えずはひと段落。

そして、林間学校の夜のお楽しみが近づいてこようとしていた。

 夜の枕投げの前に、まずは、楽しい楽しいみんなでお風呂だ。

 当然恥ずかしがって、入浴を嫌がる生徒もいたが、それこそ、運命からは逃れられないことだ。

 いずれは、いい思い出になるのだからと、みんなで一緒の入浴タイムは、避けられない。

 3組の生徒たちは、しぶしぶ、風呂場へと向かった。

 「ハク先生も一緒に入ろうよ!!」

 「えっ?僕?」天真爛漫な生徒に手を引かれ、ハクも一緒に更衣室へ向かう。

 「先生?」ハクが、どうしようという表情で、担任教師を見つめた。

 先生は、正直、これから一緒にやる仕事があったのだが、白い歯を見せて笑いながら答えた。

 「入ってきたら!?生徒たちも喜ぶだろうし。」

 先生からの了承を得ると、ハクは少し微笑んで頷いた。

 

 

つづく