わたしは、10年間生きてきて、ようやくおにいちゃんの事を見事に言い表した、言葉を覚えた。
『マゾ』って言うんだ。
今までは、兄だから、自分よりは当然えらいものと、周りに教えられ、律儀にも、それを信じてきたんだと思う。
だけど、もう隠しようがないよ。
わたしはおにいちゃんなんかよりも、断然頭いいし、スポーツだって、ほかのことだって、一切負けているような気がしない。
いや、実際負けない。
おちいちゃんは中学生なんだけど、ちょっと知遅れというか、愛すべき馬鹿といった感じの男の子。
そのくせに、卑怯者だの臆病者だののオプションがいっぱいついてくるから、わたしはおにいちゃんのことをクズと考えたくもなるんだよ。
事実4歳年上なのに、わたしのほうが、物事をよく考えて行動しているというか・・・。
そんなこんなで、わたしはおにいちゃんに振り回されっぱなしでこれまでの人生を過ごしてきた。
さすがに、我慢の限界というか、なんというか、とにかく、おにいちゃんをおにいちゃんと考えることに嫌気が差してしまったって言うのかな・・・。
とにかくもう、限界だった。
わたしは、ある日、声を荒げておにいちゃんに言ってやったの。
「おにいちゃんなんて大っ嫌い!!」
そしたら、見る見るうちに涙を溜め込んじゃって、おにいちゃんはわたしに、泣きついた。
「レナちゃ〜ん、ぼくのこと嫌いにならないでぇ〜!」
ってね。
ちなみに、ご察しのとおり、レナとはわたしの名前のこと。
そして、おにいちゃんの名前はリュウ。
男らしいかっこいい名前もらってんだから、もっと男らしくしてほしいと思うのが、わたしたち家族の切なる願いだ。
でも、もう、おにいちゃんにそれは無理なことみたい。
何回言われたって分からないんだから、もう、教えようがないって感じ。
お父さんもお母さんも、お手上げグロッキーで、もはや、おにいちゃんには好きなようにさせている状態だ。
それをわたしが面白くは思わないのは当然で、そこでわたしは、お兄ちゃんの再教育係として、立ち上がった・・・、ってなわけだ。
で、いま、おにいちゃんは、こうやってわたしの足元に裸でひざまずいている。
生まれたての状態。
一糸まとわぬ情けないフリチンスタイルだ。

「なにその目は?」餌をほしがる野良犬のような目で、わたしを見上げるおにいちゃんを見下しながら、尋ねた。
自分のことを惨めと感じていないような、とぼけた表情が、また無性に腹が立つ。
「レナちゃんが、手に持ってるものが気になって」おにいちゃんは、好奇心のうかがえる声でそう言った。
「コレ? 見たことない!?」わたしは、手に持ったソレを、おにいちゃんの目の前にちらつかせながら尋ねた。
「ぼく、わかんない!」
「あっそぅ、これね?浣腸っていってお尻に挿すものなの。」
「かんちょ〜?かんちょ〜なら知ってるよ!!クラスのお友達に、毎日やられてるんだもん!!」
おにいちゃんは、自慢にならないようなことを、胸を張りながら、言い放った。
多分、おにいちゃんの言う、クラスのそのお友達とやらは、逆におにいちゃんのことを、友達となんて思ってないんだろう…。そう思うと、こっちが泣きたくなってくる。
ポジティブなバカは嫌いじゃないけど、おにいちゃんみたいなバカは嫌いだ。
お気の毒なおバカさん。
「っで?なんでかんちょ〜持ってるの??」
目を輝かせながら、浣腸という名の薬剤を見つめるおにいちゃん。
おにいちゃんにしては、珍しく的を得た質問だ。・・・というか、まぁ、当然の質問か。
「それは、おにいちゃんに、自分の身を持って恥を知ってもらうためだよ!」
「恥?恥って恥ずかしいってことでしょ?
それなら知ってるよ!!体育館裏で裸にされておちんちんシコシコして、白いオシッコどぴゅどぴゅ出すことって、恥ずかしいことだよね?
それなら、毎日やらされてるから平気だよっ!?」
「??なに言ってるの?」わたしの情報スペックがまだ小さすぎるのか、今、おにいちゃんの言ったことは、よく分からなかった。
多分、10歳の女の子には、分からないことを言ったのだろう。
自分のことを、可憐な女の子とは思わないが、おにいちゃんのせいで、だいぶ失ったものの方が多い気がしてならない。
汚れてもいないが綺麗でもないのが、自分の心といった感じかな。
「ったく!!」
わたしは、頭を激しく振って、ヘンな被害観念をぶっ飛ばしてから、おにいちゃんに言い放った。
「いいから、さっさと四つん這いになって、お尻向けてよ!?」
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「たっぷり入ったね?」
「うぅぅ〜・・・ なんかおなかが変な感じ・・・」
おにいちゃんのしつけのためにと、お母さんに買ってきてもらった浣腸のお薬は、あっという間になくなってしまった。
ワンプッシュ式のイチジク浣腸の液体3本ぶんが、おにいちゃんの体内へと注ぎ込まれたのだ。
「ねぇ?トイレ!」
「ダメに決まってるじゃん!!」
トイレに行かせてと、催促するお兄ちゃんを、軽く無視しながら、私は、これまたお母さんに買ってきてもらったオムツを取り出した。
「はい、おにいちゃん!?オムツはきはきしましょ〜ね〜?」わたしは、幼児をあやすようにわざとらしく、おにいちゃんを挑発する。
「おっ、オムツ?いいよっ!ぼくだってトイレくらい自分でできらいっ!」
珍しくムキになるおにいちゃんを、これまた無視しながら、わたしは、オムツを強引に履かせようとした。
足をばたばたさせながらの抵抗は、この上なくお幼稚な反抗であった。
中学の2年生ともあってか、うっすらと生え始めた陰毛が、おにいちゃんの滑稽さを際立たせるアクセントに思えてしかたがない。
「わぁ!かわいい!!」
そうして、オムツを装着してみれば、前にゾウさんのイラストが描かれていて、なんだか、見ているこちらも楽しい気分になった。
それにしても、よく似合っている。
ここまで似合っていれば、おバカなおにいちゃんは、精神的にオムツ離れできていないんだし、この程度の扱いを受けるのがちょうどよいようにさえ思えてくる。
「きゃはっ!じゃっ、しあげだね!?」
私は、そう言って、部屋の洋服ダンスから、お気に入りのワンピースを取り出した。
上にちょこんとまとうだけのような、あまりに露出度の高いワンピースゆえ、下にシャツを着た状態で着こなすことがほとんどであったが、おにいちゃんは男なんだからと、直接着せることにした。
渋りながらも、おとなしくいうことを聞くおにいちゃんを見ながら、私はそうやって、マゾという生き物について学んでいったように思えた。
それと同時に、自分の幼心の汚れにも、気がついたりした。
「っぷ!!」それでも、思わずこみ上げてくる笑いが抑え切れない。
「とにかく、外に出ようか?」私は、そう言っておにいちゃんの手を引いて家を出た。
「っちょ、まってよ??」
さすがに、ためらうおにいちゃん。
無理もない。私の洋服だけあって丈の合ってないワンピースからは、可愛いゾウさんがトレードマークのオムツが、思いっきりはみ出している。

それでもわたしは、おにいちゃんの手を引いて歩き始めた。
目的地はもう決まっている。
公園だ。 公園には、お兄ちゃんにとって、もっと恥ずかしい試練を用意しているんだ。
考えただけで、ワクワクしてしまう。
わたしは、急ぎ足でおにいちゃんの手を引いていった。
